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大阪地方裁判所 昭和54年(ホ)2761号 決定

被審人

ニコニコタクシー株式会社

右代表者代表取締役

河野巖

右被審人代理人弁護士

岩渕利度

杉野忠郷

右の者に対する頭書事件について、昭和五四年一二月二一日大阪府地方労働委員会から救済命令不履行の通知があったので、当裁判所は審理のうえ次のとおり決定する。

主文

被審人を過料五〇万円に処する。

手続費用は被審人の負担とする。

理由

一  次の事実は、本件記録によって明らかである。

1  申立人を全自交ニコニコタクシー労働組合(執行委員長村上清一、以下、組合という。)、被申立人を被審人ニコニコタクシー株式会社(以下、会社ともいう。)とする大阪府地方労働委員会昭和五四年(不)第一二号事件(以下、本件不当労働行為事件という。)について、同労働委員会は、昭和五四年九月一二日付で、別紙記載の救済命令(以下、本件命令という。)を発し、同命令書の写しは、その頃被審人に交付された。

2  被審人は、本件命令に対し、法定の期間内に中央労働委員会に対し再審査の申立をせず、かつ取消訴訟も提起しなかったので、同命令は、同年一〇月一二日頃確定した。

二  また、本件記録によれば、本件命令の効力が発生した後の労使間の折衝及び団体交渉の経過は、次のとおりと認められる。

1  組合は、会社に対し、本件命令の効力が発生した後の昭和五四年九月一七日から昭和五五年八月一日までの間、二四回(右命令確定後においては二二回)にわたり、日時、場所を特定し、また、本件命令主文に掲げられた団体交渉事項の全部又は一部を議題として提示したうえ、団体交渉の申入れを行なった。会社は、右団体交渉申入れに対し、右申入れにかかる日時には原則として団体交渉に応ぜず、他の日時、場所等を指定したうえ、昭和五四年九月二六日以後十数回団体交渉の場を設定した。

2  まず、会社は、組合が昭和五四年九月一七日付をもってなした団体交渉の申入れ(団体交渉の日・同月二〇日午後一時、場所・会社内、議題・退職金及び組合事務所設置に関する件)及び同月一九日付をもってなした団体交渉の申入れ(団体交渉の日・同月二二日午後一時、場所・右同、議題・本件命令主文掲記事項全部)に対し、団体交渉の日時を同月二六日午前一〇時から同一一時五〇分までとし、場所を淀川区民センターと指定して団体交渉を開催したが、会社は、右団体交渉において、本件命令主文掲記の交渉事項から既に解決ずみのものを除外して交渉を行う旨主張し、組合は、右交渉事項全部を対象として交渉を行うべきである旨主張して互いに譲らなかったため、実質的な団体交渉は行われなかった。そして、会社は、組合の要求により、右交渉の場において述べた会社の主張を文書をもって回答したが、それによると、本件命令主文(1)記載の交渉事項(以下、本件交渉事項(1)という。本件命令主文(2)以下の略称も右の要領による。)については、「大阪地方裁判所で係争中であり、本件について団体交渉継続す。」、同(2)については、「組合、非組合員を問わず会社は既に支払済であるから解決済と考えている。組合の未払を主張する根拠並びに具体的な考えを示されたい。」、同(3)については、「昭和五四年六月一五日団体交渉の末妥結済である。」、同(4)については、「退職金改訂について目下検討中である。」、同(5)については、「共済金の性質、創設の目的に照らし、使途についての詳細を調査中。」、同(6)については、「会社建物の構造、敷地の関係上、会社内に設ける余地がないのでこの点を了承されたい。他に組合が独自に設けられる際には組合法の精神に照らし、不当労働行為、不当干渉にならない範囲内で援助する用意がある。」、同(7)については、「代務者をもって宿直、交替実施しており、万全を期している。」、同(8)については、「洗車用具については一部支給済であり、娯楽室及び休憩室は併用し、その整備については検討する。仮眠室装備は現在完備している。」と記載されている。要するに、会社は、本件交渉事項(1)については、一般乗用旅客自動車運送事業免許の取消処分(以下、本件免許取消処分という。)に対する行政訴訟が大阪地方裁判所に係属中であるから団体交渉に応じないというものであり、また、本件交渉事項(2)、(3)、(5)ないし(8)の大部分については、本件命令の効力が発生する前に解決ずみであり、或いはその要求には応じ難いとする(右交渉事項(6))ものであり、以来、組合は会社の右回答を不満として右各交渉事項について団体交渉の申入れをするも、右見解を覆さず、右申入れに応じなかったのである。とりわけ、会社は、昭和五五年二月二五日には、会社作成にかかる同日付覚書と題する書面をもって、右同旨の見解を組合に伝え、また、組合が本件交渉事項(1)ないし(8)を議題とする団体交渉を申入れたのに対し、同年三月一日付回答書をもって本件交渉事項(4)を除くその余の事項については、既に解決ずみであるとの理由で議題とすることを拒んだのである。ただ、会社は、本件交渉事項(8)のうち仮眠室の整備に関し、解決ずみであるとの態度を維持しながら、同年二月一日の団体交渉等において、暖房がないとの組合の指摘に対し、石油ストーブを設置する用意があると述べたが、その後実行されてはいない。

3  組合は、本件交渉事項(4)について、昭和五四年九月一七日付で申入れた団体交渉の議題として以来、団体交渉申入れの都度右交渉事項を議題として申入れていたのであるが、会社は、同月二六日の団体交渉において、右事項については検討中であるとの回答を示したものの、その後開かれた団体交渉においては何ら具体的な回答を示さなかったが、昭和五五年一月一二日に至り、会社は、組合との間で退職金協定を締結したい、右協定の内容は、資料を十分調査検討した上、会社が組合との間で昭和五四年五月八日に退職金については大阪の全自交の水準に従って早急に解決する旨確認した趣旨を踏えたものとしたい、右協定の草案については、昭和五五年一月末日までに組合へ提示すると回答した。その後、会社は、同月三一日の団体交渉において、会社には退職金規定が現に存在すると述べたが、右規定を具体的に示すことなく、組合が退職金額を示すよう求めたのに対し、勤続年数一〇年の従業員に対し、約六万円程度の退職金を支払うものである旨口頭をもって回答し、これをたたき台として欲しい旨述べた。これに対し、組合は、会社が主張する退職金規定とは本件命令の理由中でもその存在すら否定された互助会の規約をいうものであると解し、会社に対し、先に会社が同月一二日の団体交渉においても約束した大阪の全自交の水準に従った退職金規定案を翌日までに呈示するよう求めた。翌二月一日、会社は、既に退職金規定についてはたたき台を提示しているから、組合の具体的な希望や考えを示してもらいたいと求めたのに対し、組合は、会社の右のような提案及び態度について、はたして会社が退職金問題を解決する意思を有するものであるかどうかにつき強く批判したのみで交渉を終った。なお、組合が主張する大阪の全自交の水準に従った退職金とは、組合が会社に提出した昭和五四年二月二六日付の「退職金規定設定について」と題する要求書に記載された退職金額をいうのであり、ちなみに、右要求書によると、勤続年数一〇年の従業員が自己の都合で退職した場合の退職金額は、金四〇万五〇〇〇円である。

会社は、昭和五五年二月一六日に開かれた団体交渉において、従前以上の提案をすることなしに、却って、退職金規定を従来のものから新たなものに改訂するには、現に本件免許取消処分を受けたことから、会社の水揚げが減少して経済的に苦しい状況にあるので、一三乗務を確実にして水揚げをあげるなど財源の点を考慮してもらいたいと説明、要請するのみであった。そして、会社は、同月二六日の団体交渉において、口頭で退職金に関する試案を説明した。すなわち、右試案は、従来の退職金についての規定である互助会規約に定める退職金額に三パーセント上積みするというものであり、金額的には、勤続年数一〇年の従業員で約八万円の退職金となるというものであった。組合は、右試案を文書でもって示すよう求めたが、会社は、これを拒否した。そして、会社は、右試案による退職金額が会社として支給し得る最高限度額であることについて、「昭和五四年六月一五日組合と賃金改定の協定を結び、それによると運転者は平均賃金(賞与を含む)が水揚げの五七~五八パーセントとなり、これに退職金の右三パーセント嵩あげを算入すると、水揚げの六〇パーセントを上回る計算になる。タクシー業界における経営常識では賃金退職金の配分率は水揚げの五六~五七パーセントが限度で六〇パーセントを超えると必要経費の算出が困難となり企業としての存立すら危ぶまれているところである」旨口頭で説明をしたが、それ以上に具体的な資料等を示して組合の理解を求める方策をとることはなかった。

以来、同年三月四日及び八日、同年五月一二日に本件交渉事項(4)について団体交渉が開かれたが、従前以上の実質的な交渉は行われなかった。

4  なお、会社は、昭和五四年一月一九日、大阪陸運局長から一般乗用旅客自動車運送事業免許を取消す旨の処分(本件免許取消処分)を受けたが、右処分の取消を求めて大阪地方裁判所に行政訴訟を提起した結果、同裁判所は、昭和五五年三月一九日、右処分を取消す旨の判決をし、右判決は、同年四月三日確定した。

三  以上の事実を前提として、被審人に本件命令不履行の事実があるかどうかについて検討する。

本件命令は、会社に対し、本件交渉事項(1)ないし(8)について、組合と誠意をもって団体交渉を行うことを命ずるものであるところ、会社は、右命令に対し、再審査の申立又は取消訴訟を提起することなくこれを確定させた以上(緊急命令が発せられた場合も同様である。)、会社の勝手な裁量や認識のもとに右命令を実行するかどうか決し得るものではなく、なかんずく、本件不当労働行為事件の審査において主張した事由をもって、右団体交渉を拒否することができないことはいうまでもないところであって、会社としては、特段の事情のない限り、労働委員会が右命令の理由中において、団体交渉をなすべき事由として示した事情を十分斟酌して、誠実に組合との団体交渉に応じなければならないものと解するのが相当である。

そこで、本件交渉事項の履行状況についてみるに、次の通りである。

1  本件交渉事項(1)について

大阪地方裁判所は、本件交渉事項(1)の端緒をなす本件免許取消処分を取消す旨の判決をし、右判決は、昭和五五年四月三日に確定したのであるから、会社は、右同日以降、組合との間に右交渉事項について団体交渉をなす必要がなくなったものと解するのが相当である。

しかしながら、会社は、地労委の本件不当労働行為事件において、右交渉事項につき、団体交渉に応じない正当理由として、本件免許取消処分に対する行政訴訟が大阪地方裁判所において係属中であるから、その審理の結果を待つべきであって、今直ちに議論すべき問題ではないと主張したのに対し、本件命令は、本件免許取消処分が従業員の身分にかかわる重大な問題であることに鑑み、会社は、組合に対して右処分に伴う従業員の身分問題について誠意をもって、処分の経過、処分確定後の会社の対応策等について説明すべきであるとしているのである。したがって、会社は、本件命令の示す右趣旨に従って組合と右交渉事項について団体交渉を行うべきであるところ、前記認定のごとく、本件命令の効力発生後も本件不当労働行為事件の審査において主張したと同旨の理由をもって、右交渉事項についての団体交渉を行なっていないのであるから、本件免許取消処分に対する前記行政訴訟が確定するに至る前日である昭和五五年四月二日までは、本件交渉事項(1)に関する本件命令の履行を怠ったものというべきである。そして、右結論は、右行政訴訟の結果如何によって左右されるものでないことは明らかである。

2  本件交渉事項(2)、(3)、(5)ないし(8)について

会社は、右各交渉事項については、既に本件命令の効力発生の前後に解決ずみであること、又は組合の主張する要求には応じ難いこと(右交渉事項(6))を理由に団体交渉に応じないものであるところ、右理由の大部分は、いずれも会社が本件不当労働行為事件の審査の過程において主張し、本件命令においてそれが理由のないものであるとして斥けられたものであることは、本件命令の記載から明らかなところであるのみならず、本件における全資料によるも右会社主張の理由を認めることはできない。

却って、本件記録によれば、次の事実が認められる。すなわち、(イ)本件交渉事項(2)について、組合は、過去三ケ月の平均賃金から一日の賃金額を算出し、これに昭和五四年一月二二日から同月二八日までの七日間を乗じた金額を保障すべきであり、かつ、昭和五四年一月二九日以降同五四年二月二〇日までの間に会社を退職したものにも、右賃金保障をすべきであると主張しているのに対し、会社は、右組合の主張と異る方法で、右期間中の賃金保障額を算出し、かつ、昭和五四年一月二九日以降同年二月二〇日までに会社を退職したものにはこれを支払わず、右問題は、解決ずみであると一方的に主張しているのに過ぎないのであって、実際には、右問題は未解決であること、(ロ)本件交渉事項(3)について、組合と会社との間において昭和五四年六月一五日に賃金協定ができたが、組合は、拘束時間中のハンドル時間、三六協定、修理手当、組合員が行政処分を受けたときの下車勤の問題等について、未解決であるとして、その交渉を求めているのであるから、右の問題も未解決であること、(ハ)本件交渉事項(5)について、会社は、従来、運転手の人身事故や物損事故についての損害を填補する趣旨の下に、組合員から共済金として毎月五〇〇円を徴収していたところ、組合は、右共済金の使途を明確にするよう求めているのに対し、会社は、その使途を組合員にわかるように説明をせず、これを明確にしていないのであって(会社主張の〈証拠略〉によって、右使途が明確になっているとは到底認め難い)、右問題も未解決であること、(ニ)本件交渉事項(6)について、組合は、会社に対し、会社内に組合事務所を設けさせて欲しいと要求しているのに対し、会社は、会社内に組合事務所を設ける余地はないと主張してこれに応ぜず、したがって、右の問題も未解決であること、(ホ)本件交渉事項(7)について、組合は、夜間、会社内に修理工を待機させ、運行管理者を宿直させて欲しいと要求しているのに対し、会社は、修理工は夜間自宅に待機させ、必要に応じて呼び出すことにしており、運行管理者の宿直についても、その代行者を宿直させているので、右問題は解決ずみであると主張しているところ、組合は、右の如き会社の措置では不充分であると主張して、さらにその交渉を求めているのであるから、右問題も未解決であること、(ヘ)本件交渉事項(8)について、会社は、洗車用具の購入、娯楽室の設置、及び、仮眠室の整備については、すべて整備したと主張しているが、組合は、冬の寒いときには仮眠室にストーブをいれるよう要求しているのに対して会社はこれに応じていないし、洗車用具についても、組合は、石けん、ウエス、長靴、ブラシ等の用具の備付けを要求しているのに、会社は、これに応じておらず、右の問題も未解決であること、以上の事実が認められるのである。

よって、会社が右理由をもって団体交渉に応じないことには何ら合理的な理由がなく、右各交渉事項に関する本件命令の履行を怠ったものであることは明らかである。

3  本件交渉事項(4)について

さきに認定したところからすれば、次のことが明らかである。すなわち、会社は、本件交渉事項(4)について、前後約一〇回にわたり団体交渉の場をもっているのであるが、当初、退職金規定の改訂については検討中との理由で、組合に具体的な提案をなすことがなく、右提案をなしたのは、昭和五五年一月三一日又は二月一日に至ってのことである。そして、右提案にかかる退職金規定の試案は、結局、会社が本件不当労働行為事件の審査において、現行の退職金規定であると主張していた互助会の規約又はこれに若干の上積みをするというものにすぎず、右規定内容について、組合が書面をもって明示することを要求したにも拘らずこれを拒否し、単に口頭をもって説明したにすぎなかったのである。右のような会社の交渉態度及び内容は、従来、組合が大阪の全自交の水準並みの退職金を要求し、それを具体的な金額として示していたこと、会社は、昭和五五年一月一二日の団体交渉において、資料を検討した上でとの留保をつけていたとはいえ、組合の要求する右水準に従った提案をしたいとしていたこと、会社が提案した退職金額は、組合が要求する右基準に比し著しく低額であること、会社提案にかかる互助会の規約に基づく退職金額については、従来から組合が受入れを強く拒否し、容易に受入れないであろうことが明らかに推測されたこと、右規約自体組合及び従業員にとって明らかとなっていたものでないことが本件命令によっても指摘されていることに照らし、また、会社が十二分に検討した結果、右のような互助会の規約に基づき或いはこれとほとんど変らない提案をなさざるを得ないとするならば、その事情について、単に口頭で説明するというのではなく、具体的な資料を示すなどしてその理解を求めるべき努力をなすべきであるのにこれをなさず、徒らに、組合に具体的な提案をなすことを求め、かつ、会社経営上の困難さを理由に運賃収益の増加に対する協力を求めるとの発言に終っていることからすると、会社は、右交渉事項について、組合との間で誠意をもって団体交渉をなしたものということはできない。

よって、会社は、本件交渉事項(4)に関する本件命令の履行を怠ったものというべきである。

四  以上の次第で、被審人は、本件交渉事項(1)について、本件命令確定(昭和五四年一〇月一二日頃)後、昭和五五年四月二日までの間、本件命令を履行せず、また、本件交渉事項(2)ないし(8)に関する本件命令を結局のところ現在まで履行しなかったものというべきであるから、被審人の各所為は、労働組合法二七条九項、三二条に該当する。よって、諸般の事情を考慮のうえ、同条所定の過料金額の範囲内において被審人を過料五〇万円に処することとし、手続費用の負担につき非訟事件手続法二〇七条四項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 後藤勇 裁判官 松山恒昭 裁判官 小泉博嗣)

別紙 命令書

主文

被申立人は、昭和五三年一一月一〇日以降昭和五四年四月一二日までの間に申立人から申入れのあった下記事項について、申立人と誠意をもって団体交渉を行わなければならない。

(1)一般乗用旅客自動車運送事業の免許取消処分に伴う身分保障

(2)昭和五四年一月二二日から同月二八日までの休業中の賃金保障

(3)賃金改定問題

(4)退職金協定

(5)共済金の使途の明確化

(6)組合事務所の設置

(7)夜勤修理工の待機及び管理者の宿直

(8)洗車用具の購入、娯楽室の設置及び仮眠室の整備

理由

第1 認定した事実

1 当事者

(1) 被申立人ニコニコタクシー株式会社(以下「会社」という)は、肩書地(略)に本社を置くタクシー会社で、その従業員数は、本件審問終結時約九五名である。

(2) 申立人全自交ニコニコタクシー労働組合(以下「組合」という)は、会社の従業員で組織する労働組合で、その組合員数は、本件審問終結時約三五名である。

なお、組合は当初ニコニコタクシー労働組合と称していたが、本件申立て後の昭和五四年四月二七日、大阪市浪速区大国町所在の全国自動車交通労働組合大阪地方連合会に加盟し、上記のとおり名称を変更した。

2 組合結成に至る経過

会社には、昭和五一年八月から昭和五二年二月ごろまで労働組合が存在していたが、その後消滅し、昭和五三年一一月九日、大阪陸運局において会社に対する道路運送法第二四条違反(区域外運送)等第一七項目の違反を理由とする一般乗用旅客自動車運送事業(以下単に「運送事業」という)の停止・免許の取消しの公示がなされたのを契機に、同月一〇日新たに組合が結成された。

3 運送事業免許取消し公示後の経過

(1) 前記のとおり、五三年一一月九日、大阪陸運局において会社に対する運送事業の停止・免許の取消しの公示がなされたが、この公示事案に関して利害関係人は、道路運送施行規則第六三条の三の規定により公示の日から一〇日以内に大阪陸運局に対して聴聞申請書を提出することができることになっているため、会社は直ちにその準備を行い、同月一八日その申請をした。

(2) 一二月一二日、大阪陸運局において前記申請に係る聴聞が行われた。

(3) 昭和五四年一月一九日、大阪陸運局は、会社に対して運送事業の免許取消しを通知したため、会社は同月二二日から営業ができなくなった。

(4) そのため、会社は、同日大阪地方裁判所に対して、前記免許取消処分の執行停止を申し立てた。

(5) 同月二四日、会社は、三津屋会館に従業員約四〇名を集め、代表取締役河野巌(以下「社長」という)出席のもとに会社の今後の方針や休業中の従業員の生活保障について説明会を開催した。

その席で会社は、休業中の賃金については六〇%保障する旨説明した。

(6) これに先立ち組合は、前記説明会は、事前に組合や全従業員に知らされたものではなく、一部の従業員だけを集めて行われようとしており、また、元営業部長で既に会社を退職したはずの臼井某が出席するというのは納得できないとして執行委員は出席せず、また特に組合員に対しても出席を呼びかけなかった。

(7) 一月二六日、大阪地方裁判所は、前記(4)の会社の申立てに対し、執行停止の決定をしたため、会社は、同月二九日から営業を再開した。

なお、会社は、同月二二日、大阪地方裁判所に対して前記行政処分の取消しを求める訴えを提起しており、現在、同地方裁判所に係属中である。

(8) 二月二八日、会社は、二月分の賃金支給の際に、一月二二日から同月二八日までの休業中の賃金については、二月二〇日までの残乗務である一〇乗務(一乗務は正午から翌朝一一時までの拘束二三時間で、その内一六時間が実働時間となっている)満勤者に対してのみ、一〇乗務水揚高の割増しの形で支給した。

組合は、会社のこの措置に対しては、休業前の賃金支払実績によらず、業務再開後の賃金、労働実績により支給しているとして反対し、団体交渉を要求している。

4 会社の労働条件等

(1) 賃金及び退職金

ア 会社の乗務員の基本給は二〇、八〇〇円で、同業他社のそれが、おおむね一一〇、〇〇〇円程度であるのに比べて極端に低く、逆に歩合給の割合が高かった。

組合は、このことは必然的に乗務員を、休憩時間や仮眠時間を少なくして交通関連法規を無視する長時間労働に追い込むものであるとして会社に対し賃金体系の改訂を要求していた。

なお、この点に関しては、後述のとおり後日労使間で賃金協定が締結され改善が図られた。

イ 従業員の退職金については明らかにされておらず、その規定の存否についても従業員は承知していない。

(2) 福利厚生

ア 会社は、共済金として従業員から毎月一人当たり五〇〇円を徴収しているが、その使途については組合員は全く知らず、会社から決算の報告もなされていなかったため、組合は、会社に対し、それらの点を明確にするよう要求していた。

イ 会社には乗務員のための仮眠室は設けられていたが、長時間にわたりふとんの入替えや消毒がなされず、またふとんにシートも掛けられていなかったためにほこりをかぶっており、更に冬期は暖房もなかったため仮眠室の利用者は極めて少なかった。

このため、組合は、会社に対してその改善を要求していた。もっとも、会社は、本件申立て後ふとんの入替えや掃除を行い、仮眠室を改善した。

ウ 会社には娯楽室は設置されておらず、休憩室にも机、ソファー、ロッカーが置かれているのみで従業員の福利厚生のための設備、備品は設けられていない。

(3) その他

ア 組合は、専用の事務所を有していないため休憩室を組合事務所代りに使用することを会社に申し入れていたが、会社はこれを公式に認めていないため、組合は、会社の承諾がないままこれを使用している。

イ 会社の自動車修理工の勤務時間は午前八時三〇分から午後五時三〇分までであるため、修理工の退社後、事故その他で車両の修理を必要とする場合は、当直者が修理工に電話連絡することになっている。

このため、組合は、会社に対し不測の事態に備えて、夜勤修理工の待機や管理者の宿直体制を実施すべきことを要求している。

ウ 会社には、洗車機は設置されているものの、各車両毎に洗車用具が用意されていないため、乗務員が各自それを調達している。

5 団体交渉の経緯

(1) 組合の会社に対する団体交渉の申入れとその開催状況は、次表のとおりである。

(2) 組合の上記(1)の団体交渉の申入れに対して、昭和五三年一一月一三日の最初の団体交渉には、会社側は、社長のほか河野営業部長(以下「河野部長」という)、岩崎渉外課長(以下「岩崎課長」という)らが出席したが、社長は「陸運局の処分が決まってから話し合おう」と述べただけで退席したため、話合いは行われなかった。

(3) それ以後、社長は組合との団体交渉には出席せず、昭和五三年度冬期一時金をめぐって開催された一二月九日、同月一六日、同月二〇日、及び同月二三日の団体交渉には、いずれも河野部長のほか岩崎課長らが出席したが、同部長らは、会社側の方針を説明するのみで、「こんなことは自分らで決められない」との旨述べて話合いは進展しなかった。

〈省略〉

しかし、結局昭和五三年度冬期一時金については、労使の合意に達しないまま、同月二六日に会社の方針どおりに支給された。

(4) その後、組合は上記(1)のとおり会社に対して従業員の身分保障の問題等について再三団体交渉を申し入れたが、会社が応じなかったため、五四年二月二七日、組合は当委員会に対して、団体交渉の促進についてあっせん申請を行った。

当委員会のあっせん員は、三月二四日に労使双方から事情聴取を行った結果、調整困難とみてこのあっせんを打ち切った。

(5) 三月九日の組合の団体交渉申入れに対して、会社は、同月一六日に開催したい旨回答し、組合は開催時間を同日午後一時と了解していたが、会社は、同日午前一〇時に約束していたと主張したため、この日の団体交渉も行われなかった。

(6) 三月二九日の組合の団体交渉申入れに対して、会社は、四月五日に開催したい旨回答し、組合もこれを了承していたところ、当日朝、従業員の一人が交通事故で重傷を負ったため、この日の団体交渉は取り止めとなった。

(7) その後、三六協定及び賃金改定問題に関しては、四月一六日以降六月一五日までの間に九回の団体交渉が行われ、三六協定については四月二三日、賃金改定については六月一五日に労使双方が合意に達した。

そして、賃金改定については、同日付けで賃金協定を締結したものの、同協定の解釈をめぐって、労使双方に意見の一致をみていない。

また、組合が五三年一一月一〇日以降五四年四月一二日まで会社に対して申入れをしてきた団体交渉事項のうち、〈1〉従業員の身分保障、〈2〉会社の休業期間中の賃金保障、〈3〉退職金協定、〈4〉共済金の使途の明確化、〈5〉組合事務所の設置、〈6〉夜勤修理工の待機及び管理者の宿直、〈7〉洗車用具の購入、〈8〉娯楽室の設置及び仮眠室の整備についても、現在に至るまで団体交渉は行われず、あるいは団体交渉の議題に上ってもその内容について十分な議論はなされていない。

第2 判断

1 当事者の主張要旨

(1) 組合は、会社は組合の団体交渉の申し入れに対して、責任者から具体的にその日時には応じられない旨の説明を行わず、また、会社側からそれに代る日時を指定せず、単に組合の申入れを聞きおくという極端な組合無視の態度であって、正当な理由なく団体交渉を拒否するものである、と主張する。

(2) これに対して、会社は、次のとおり主張する。

〈1〉 すなわち、組合の団体交渉の申入れは、申入れの即日、または翌日ないしは翌々日に団体交渉をせよというものであって、急にこれを求められても応じられるものではなく、しかも、組合から指定された日の団体交渉に応じなかったのも、それぞれ次のような理由があった。

ア 一一月一五日の団体交渉は、議題に関して当時の高槻執行委員長(以下「高槻委員長」という)に事前説明をしたところ同委員長はこれを了承したので、団体交渉の必要がなくなったものである。

イ 一一月二九日の団体交渉は、高槻委員長に日程の変更を希望したところ、それが了承されて、申入れが撤回されたものである。

ウ 一月二〇日の団体交渉は、陸運局より免許取消処分を受けたので、行政処分の執行停止申立て及び行政処分取消しの訴提起の準備に追われ、時間的余裕がなかった。

エ 一月二五日の団体交渉は、上記執行停止申立ての件で社長が裁判官に面接するため、開ける状態ではなかった。

オ 一月三一日の団体交渉は、高槻委員長に対して会社は営業再開の業務に追われているから即日の団体交渉は不可能である旨回答したところ同委員長はこれを了承したものである。

カ 二月一四日の団体交渉は、場所を確保する必要があることなどから即日ないし翌日の団体交渉は難しいとして、組合に対し、団体交渉の前に事務折衝することを申し入れたが、組合の回答がなかった。

キ 三月一日の団体交渉は、組合があっせん申請した事件について、社長が大阪府地方労働委員会で事情聴取を受けたため、開催できなかったものである。

ク 三月一九日の団体交渉は、組合側の都合で開催できなかったものである。

〈2〉 また、組合が団体交渉を求めている事項は、次のとおり、いずれも解決済みの問題か、論議すべき時期にない問題である。

ア 運送事業の免許取消処分に伴う身分保障の問題は、当該処分について現在、大阪地方裁判所で係争中であるから、本案の審理の結果を待つべきで、今直ちに論議すべき問題でない。

イ 会社の休業中の賃金保障については、全額支給済みの問題である。

ウ 賃金改定問題も、六月一五日に賃金協定を締結したことにより解決済みである。

エ 退職金協定については、現在会社は互助会の規定を設けて、それに基づく退職金を支給している。

オ 共済金は、主として乗務員の勤務中の事故の補償に当てている。

カ 仮眠室は整備済みである。

キ 洗車のための設備や事故等の場合に備えての連絡体制には万全を期している。

ク 組合事務所については、会社の建物の広さ、使用状況等からみて、設置を認める余裕はなく、むしろ、福利厚生面の充実が先決である。

以上のとおり会社が団体交渉に応じないことには正当な理由がある。

よって、以下判断する。

2 団体交渉の開催指定日について

(1) 組合は、確かに会社が主張するように申入れの即日、または翌日ないし翌々日に団体交渉の開催を求めている場合が多いことは前記認定のとおりである。

ところで、組合の団体交渉の申入れに対して、会社が申入れの日に応じられない場合には、会社は、それに代る日を提示すべきである。

しかしながら、前記認定のとおり、組合の団体交渉の申入れに対して、会社が開催日の変更を申入れ、それを組合が了解していたのに当時の事情で開催できなかったと認められるのは、三月九日及び三月二九日の団体交渉の申入れのみで、その他の団体交渉の申し入れについては、会社の主張を認めるに足る疎明がない。

(2) のみならず、組合が、団体交渉の申入れに際し、開催日について組合の指定した日に固執していたとの事実も認められないから、会社の上記主張は失当であり、採用できない。

3 団体交渉事項について

(1) 一般に団体交渉において、使用者は正当な理由がない限り労働者側の要求事項について、誠意をもって交渉を行うべき義務を負うものと解される。

そこで、本件の場合、組合が団体交渉を求めている事項については、会社が主張するように団体交渉を行う必要のない、又は時期的に適当でない事項なのかどうかが問題となるので、この点について検討する。

ア 運送事業の免許取消処分に伴う身分保障について

運送事業の免許取消処分は、会社の従業員の身分にかかわる問題であるから、組合員ないし組合にとって重大な問題であることは論をまたない。

したがって、会社は、組合に対して当該処分に伴う従業員の身分問題については誠意をもって、処分の経過、処分確定後の会社の対応策等について説明すべきである。

ところが、前記認定のとおり会社は一部の従業員を集めて、会社の今後の方針や休業中の従業員の生活保障について説明会を開催しながら、他方組合や他の従業員に対しては、上記説明会の通知をなさず、上記処分に伴う身分保障についても、当該処分について大阪地方裁判所で係争中であることをもって団体交渉を拒否しており、これは、正当な理由を欠くと言わなければならない。

イ 会社の休業中の賃金保障について

この点について会社は、全額支給済みであると主張するが、組合は、その支給方法は納得できないとして反対し、団体交渉を要求していることは前記認定のとおりであって、これを拒否するについて、正当な理由があるとは認められない。

ウ 賃金改定問題について

前記認定のとおり賃金協定が締結された事実は認められるが同協定の解釈をめぐって労使間に対立がある以上、会社は、引き続き団体交渉を行うべきである。

エ 退職金協定について

会社は互助会の規定に基づき退職金は支給されていると主張するが、前記認定のとおり、従業員は、その規定の存否すら承知しておらず、又その規定の存在及びその内容についても疎明がない。

オ 共済金の使途の明確化について

共済金の使途についても、従業員は全く知らず、これに関する決算の報告もなされていないことは、前記認定のとおりである。

カ 組合事務所の設置について

組合事務所の設置の問題は、専ら労使間の話合いに委ねられるべきものであるが、福利厚生面の充実が先決であるという理由だけで、この点についての団体交渉を拒否する会社の態度には妥当性を認め難い。

キ 夜勤修理工の待機及び管理者の宿直について

会社は、事故等に備えて万全の体制をとっていると主張するが、それを認めるに足る疎明はない。

ク 洗車用具の購入について

この点についても、会社において十分な措置がとられていないことは前記認定のとおりである。

ケ 娯楽室の設置及び仮眠室の整備について

会社の娯楽室及び休憩室は、前記認定のとおり整備されていない。

また、仮眠室については、一応の改善が認められるが、十分な改善が図られたと認めるに足る疎明はないから、この点についても会社は団体交渉に応じるべきである。

(2) 要するに、組合が要求している団体交渉事項についても、会社の主張は失当であり、採用できない。

4 結論

以上要するに、組合の団体交渉の申入れに対して、単に時間的余裕がなかったとか、申入れ事項が一方的に解決済みであるとか、あるいは団体交渉を行うのに適当な時期でないとして、それを拒否する会社の態度は、なんら正当な理由なく団体交渉を拒否するものであって、労働組合法第七条第二号に該当する不当労働行為であると判断せざるを得ない。

以上の事実認定及び判断に基づき、当委員会は、労働組合法第二七条及び労働委員会規則第四三条により主文のとおり命令する。

昭和五四年九月一二日

大阪府地方労働委員会

会長 川合五郎

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